『浪花見聞雑話』より

腹の曲芸

 明和九年、大阪の娯楽地として賑わう阿弥陀池に、腹の曲芸の見世物が来た。
 四十歳くらいの男が、腹でさまざまな芸をなすのだが、そのなかでも「波打ち腹」というのは、腹一面を波のごとくうねらせ、男波・女波と打ち分けてみせた。
 きわめつけは「天の岩戸腹」で、へそを背に回し、よじれた腹に板を敷いて、その上に燈明を七つともした。

 この見世物はそのとききりで、再び来ることはなかった。
あやしい古典文学 No.1593