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木村蒹葭堂『蒹葭堂雑録』巻之三「耳四郎」より |
耳四郎 |
安永七年の春、豊後国生まれの耳四郎という者が見世物に出た。 耳四郎は、耳でものを言うことができた。 まずはじめに耳から声を出し、あるいは「かぼちゃ節」をうたった。大声を出すと、竹細工の象独楽のように聞こえた。 それから三味線に合わせて種々の歌をうたい、見物人を喜ばせた。「もしや口の中に笛などの仕掛けがあるのでは」との疑いを晴らすため、煙草を吸いながら声を出した。 じつに世にもまれな奇芸だと評判をとり、見世物小屋は大いに繁盛した。 耳は声を聞く器官なのに、耳で言語を発するとは驚きだ。その類の話は未だ聞いたことがない。 |
あやしい古典文学 No.1594 |
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