森田盛昌『続咄随筆』中「岡野某異変の事」より

誘う坊主

 寛延三年のある日、岡野某が法船寺町通りを歩いていると、何者とも知れぬ坊主が誘いかけて、連れ立ってどこの国とも知れぬところへ行った。

 同日の夜、河北郡御所村の成田長次郎の敷地の中で、一人の侍が刀を抜いて立っていた。
 家の下男たちが棒など持って出て、何者かと問うと、はっと我に返った様子だった。
「いや、拙者は怪しい者ではない」
「ならば、まず刀を鞘に収められよ」
 そのとき、主人の長次郎が出てきた。侍は岡野某で、謎の坊主に誘い出された委細を語った。
「……そんなわけで、しつこく誘う坊主を殺してやろうと思い、刀を抜いて斬りつけた。そこへ、そなたらが来合わせたのだ。そもそもここは、いったい何処だ。そなたは誰だ」
「御所村の成田長次郎と申す。食事でも召し上がられよ。お帰りには、供をつけて差し上げよう」
 しかし岡野は、それには及ばないと断って帰っていった。
 真夜中過ぎのことであったから、長次郎の不審は晴れず、一人の者に見え隠れに尾けさせたが、別状なく岡野の屋敷に入ったという。

 虚実のほどは知らない。
あやしい古典文学 No.1595