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平尾魯遷『谷の響』五之巻「■に不浄を用ふ」より |
不浄の雨乞い |
飯詰村というところの山中に、「雨池」という池がある。 干ばつの年には、里人たちがこの池の辺りに葬送の道具や産室の不浄物を捨て、あるいは牛馬の骸骨などを池水に投げ込んで、さまざまな汚らわしい行為をなす。すると、たちまち大いに雨が降ってくる。大昔から変わらずそうなので、「雨池」の名があるのだそうだ。 先ごろの嘉永四年も干ばつであった。 村々の農夫どもは、さまざまな不浄のものを持って池の周囲に集まり、雨乞いを行った。 その中の一人の男は、手に馬の骨を掲げて、忌まわしいことを叫びながら池に飛び込んだ。男は池中の島の近くまで泳いだが、どうしたことか突然身をのけぞらせて、そのまま水底に沈み、それっきり浮かんでこなかった。 驚いた仲間の男が、助けにいこうと飛び込んだが、これも島に近づいたところで沈んで、姿が見えなくなった。 岸では大騒ぎになり、皆で急ぎ筏を作って、池全体をくまなく探して回ったけれども、二人の姿は見つからず、捜索を打ち切るしかなかった。 それから五日ばかり過ぎたとき、池は唐突に波わき起こり、水あふれて、二人の死骸を岸辺に揺すりつけた。人々は、それを担ぎ帰って葬ったという。 汚穢不浄のものを用いた雨乞いは、他の諸国にもままある。しかし、冒涜的で危険でもあり、極力避けるべき行為だといえよう。 |
あやしい古典文学 No.1602 |
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