森田盛昌『咄随筆』中「飛行の銭」より

飛行銭

 東美源内が、ある夜、吉田流火矢の稽古のため、四五人連れで犀川の河原に出たときのことだ。
 そこには蝶のごときものが、あたりにむらむらと飛び交っていたので、追い回し、飛び上がって弓で叩き落した。
 落ちたのを見ると、寛永通宝の銭だった。
「十二三文拾ってきた」
 そう言って源内は筆者に見せ、いまだ幼少だった息子の多四郎に一文くれた。
「鼠の皮で巾着をこしらえ、入れておけば、また飛行の銭に逢う」
と教えられたので、多四郎はそのとおりに巾着を縫って腰に付けていたが、隣の猫がしょっちゅう飛びついてくるのに困って、折れ釘に掛けたっきりになった。

 その銭は、巾着とともに失って、今はない。
あやしい古典文学 No.1607