本島知辰『月堂見聞集』巻之十四より

赤飯を食わせろ

 享保七年九月中旬のことだ。

 京都四条油小路あたりに住む夫婦があって、妻のほうが病気で死んだ。
 貧家なので葬送もままならないところ、かねてより念仏講に加わっていたので、講の衆が来て葬具などを用意した。旦那寺の僧も来て髪を剃ったが、まだ棺桶が届いていないため、僧は帰った。
 その後、棺桶が届いたので、入棺しようとしたら、死人が突然蘇生した。居並ぶ者たちは、喜ぶ者あり恐れる者ありで、大騒ぎした。
 そのとき、死人が口を開いた。
「飯を食いたい。ただし、日ごろより赤小豆飯が好物だ。早々に用意してくれ」
 そこで赤飯を与えると、たちまち数杯を平らげた。
 さては本当に生き返ったのかと、医師を数人呼んで診てもらったが、みな一様に首をかしげた。
「まったく脈がない。これに薬を施すことは難しい」
 それでは邪気の仕業かと、山伏・陰陽師など数人が来て祈祷したが、いっこうに効き目がなく、種々の食物を求めてやまない。万策尽きてそのまま放置しておいたら、三日ばかりして死んだ。

 きっと狐狸などが入れ替わったのだろうと、近隣の者が語った。
あやしい古典文学 No.1612