津村淙庵『譚海』巻之九より

房総の狐

 房総の地は狐が多く、ちょっとした隙に釣った魚を盗られてしまう。

 夜分、漁師が魚を家へ持って帰るときは、必ず狐が跡をつけてくる。それをあらかじめ承知して、魚をいくつか投げ与えると、やがて魚を咥えて姿を消す。
 しばらくして、また跡をついてくる。しかし、これはまた魚を狙うのではなく、貰ったのを喜んで、家まで送ってくれるのだという。
あやしい古典文学 No.1621