藤岡屋由蔵『藤岡屋日記』第二十二より

盗賊 vs.女四人

 嘉永元年十月二十日の夜、武州越中島新田の百姓文七の家に、盗賊が刃物を携えて侵入した。文七ならびに下男の長兵衛が留守のときの出来事だった。
 文七の女房こんは、刃物を奪って取り押さえようと盗賊の腕にしがみついたが、力及ばず庭に投げ出され、刃物で切られて傷を負った。
 妹娘しげ十五歳は、母親の危急とみて刃の下に飛び込み、身をもって庇ってこれまた傷を受けた。
 姉娘もと十七歳は、盗賊に飛びかかって腰の物を抜き取った。しかし、刀と見間違って鞘を奪っただけだった。
 下女きさ二十二歳は、後ろから組みついたが、腕を捩じ上げられて悲鳴を上げ、やっとのことで振り払った。
 何はともあれ四人の女は必死に立ち向かい、結局のところ盗賊はその勢いにたじろいで、何も盗らずに退散した。

 もと・しげの二人の娘は、日ごろより両親に孝行し、その上このたびは母親の危急を救った。きさも忠節を尽くした。奇特の至りである。
 これにより、公儀より褒美として、もと・しげに銀十枚ずつ、きさには銀五枚が下された。
あやしい古典文学 No.1623