柳原紀光『閑窓自語』上「広南国貢象事」より

鼠が怖い

 享保十四年、広南国から象が渡来した。
 この大きな獣を船に乗せて長く航海するにあたっては、船中の床に窪みを設け、箱状のものに鼠を入れて窪みに置き、上に網を張っておく。
 象は鼠が大の苦手なので、その鼠を外に出すまいと、四本の足すべてを用いて箱の上を塞ぐ。このことに懸命になるあまり、数日間、船中に立ちっぱなしでいる。
 そうしておかないと、象は泳ぎが得意なので、たちまち海に飛び込んで、生まれ故郷へ帰ってしまうのだ。

 さて、これまでに象が我国へ渡来した例は、応永十五年に南蛮から黒い象が来たという一事以外に記録がないが、黒象は別種である。
 このたびの象は灰色であって、白象でもない。
あやしい古典文学 No.1629