柳原紀光『閑窓自語』中「怖雷僻語」より

雷が怖い

 雷を怖れるのにも、人それぞれ、さまざまな怖がり方がある。
 故・伏原宣幸卿は、雷の間、うつ伏した上に布団を何枚も積み重ね、その上に人を乗せて強く押さえさせた。当然、光は見えず音もほとんど聞こえないわけで、布団の内から、
「鳴るか?」
と人に尋ね、
「鳴ります」
と答えると、キャー! と叫んで怖れたという。
 伏原卿のそば近くに仕えた人に、詳しく聞いたことだ。

 また、故・吉田良延卿は、雷の間、傘をさして庭に出て、空の晴れるのを今か今かと待った。どうしても自分が庭に行けないときは、人を遣って空を見させた。
 雷が鳴るうちは、一瞬たりとも空を見ないでは不安だった。座っていることもできなかった。
 雷鳴激しい時ことさら庭に出ずにいられないとは、雷を怖れぬ者にまさる勇ましい怖がり方である。
あやしい古典文学 No.1630