平尾魯遷『合浦奇談』巻之二「海蛇」より

海蛇

 筆者の知友の高瀬氏は、天保年間に鯵ヶ沢で「海蛇」というものを見たそうだ。

 その体長は三尺ばかりで、頭部が大きく、尾が尖ってなくて、「野槌」と呼ばれる生き物のような体形だった。
 背も腹も純白に青と紅を含んで、滑らかであった。白蛇と同じような背の文様を見せて、巧みに水中を泳ぎ回った。
 この海蛇はまた、闇夜には自ら光り輝き、その光芒はキラキラと四辺を照らす。
 夏の夜、波上に発する光は、月光のみではない。海蛇が波頭を駆けることも、ままあるというのだ。
あやしい古典文学 No.1647