岡村良通『寓意草』上巻より

鷹の国

 常陸国鹿島の浦には、砂ばかりがあって石がない。
 この浦では秋のころ、千鳥の足に長い糸をつけて、青海原を越え来る鷹を誘う。海を渡って飢えた鷹が千鳥を襲おうとするのを、網で捕らえるのだ。
 海の東の遠からぬところに国があり、鷹はそこから飛来するのだと思われる。

 銚子の河口の港には「はちだ」という漁船があって、五十里ばかりも沖へ漕ぎ出し、ギスという魚を獲るそうだ。
 そこは黒潮の境界だという。
 境界の東はみな泥だ。その泥に大海の潮流が流れ入るのがきわめて速く、船も吸い込まれてしまう。そうなったら、もはや帰ることはできない。
 昔、中納言光圀卿が、「鷹が来る国を見よう」と探検船を造って向かわせたが、黒潮より東へは渡れず、引き返したとのことだ。
あやしい古典文学 No.1660