神墨梅雪『尾張霊異記』初編中巻より

うわばみの血

 文明年間の話だ。

 尾張国丹羽郡羽黒の鳴海高橋というところに、福富新蔵という者がいた。
 あるとき新蔵は、入鹿池の銚子口で、うわばみを斬った。そのうわばみが新蔵の下僕を呑んだからで、ただちに腹を断ち割って、下僕を助け出した。
 うわばみは即死した。骸を埋めて塚を築いたが、血は流れゆき、小池与八郎という者の家の、蟻の穴のごとき小さい穴に入った。
 与八郎の妻は、その前夜に家を出て、行方が分からなくなっていた。

 後年、与八郎の子が一寺を建立し、その寺は今もある。
あやしい古典文学 No.1669