中村満重『続向燈吐話』巻之九「影のわづらいの事」より

影のわずらい

 奥州会津藩の二十四五歳の侍が、肺を病んで、臥せりがちの日々を送っていた。
 侍は常に自分の影を見ては驚き、はっきりと目覚めながら、
「恐ろしや。我が影が我を襲い来るぞ」
と口走っておののき苦しんだ。

 傍らで看病する者も何となく、その侍の影が背後に立ち添うように思われた。
 その後はおりおり、影法師のごときものがちらちらと、壁などに映り動くのが見えた。
 ついにこの病は癒えず、侍は死んだ。

 これは「影のわずらい」の類であろう。
あやしい古典文学 No.1676