岡村良通『寓意草』下巻より

位牌堂の怪

 江戸の服部坂の下に、しうりん院という曹洞宗の寺がある。その寺の裏山から、あるとき、髑髏が一つ掘り出された。
 黒まだらでいかにも由緒ありげな髑髏だったから、「名のある人の頭ではなかろうか」と思って、洗い清め、経木の上に置いて施餓鬼供養した。
 それから七日目の夜より、髑髏が位牌堂の中を踊り歩いた。のちには、ほかの多くの位牌もともに踊るようになった。
 たいそう恐ろしくて、院主は夜じゅう寝られず、ついには病み臥してしまった。

 同じ宗派の寺、高田のかつさん寺の住職が、しうりん院が病み煩うと聞いて見舞いに訪れた。
 事情を聞きただし、実物を見ようと位牌堂に入ると、髑髏はいつものように経木の上に据えられていた。
「つまらんことをするから、こやつが調子に乗って騒ぐのだ」
 かつさん寺の住職は、髑髏を石の上に置いて、足で踏み砕いて捨ててしまった。
 その後は何の祟りもなかった。
あやしい古典文学 No.1682