阿部正信『駿国雑志』巻之二十四下「陰摩羅鬼」より

幽霊火

 駿河国安倍郡安倍川原の渡し場付近に、処刑場がある。
 土地の者の話では、しとしと雨の降る寂しい夜、その仕置き場で怪しい火を見ることがある。色青くして、人が佇むかのような火だ。

 このような火は、各地の古戦場および墳墓の旧地からも生ずることがある。名づけて「幽霊火」という。
 人血が土中で凝結して永く消滅せず、この怪をあらわす。すなわち「陰摩羅鬼(おんもらけ)」というのも、この陰火であろう。
あやしい古典文学 No.1687