森田盛昌『咄随筆』上「水杓に来る小女が幽霊」より

水汲み少女

 笠松新左衛門は、浪人していた時期、信州松代の姉の嫁ぎ先にしばらく世話になっていた。その頃の出来事である。

 あるとき近所の少女が死んだが、何ゆえに迷い出るのか、毎日暮れ時分になると、ふだん水を汲んでいた井戸のところに、幽霊となって姿を見せた。
 遠くからだとよく見えて、近寄るとしだいに影が薄くなり、雲か煙のごとく消え失せた。
近寄った人が消えたと思うときも、遠くから見る人の目には見えているのだった。
 その姿は、日ごろ水を汲んでいた形のままのようだったが、薄暮のことで、はっきりと見定められなかった。
あやしい古典文学 No.1697