『岩邑怪談録』「目加田の下女に蛇、執心の事」より

蛇が悶々

 ある家の下女が、夜、夢を見た。五尺ばかりの蛇が天井から鎌首を下ろし、下女の口を舐めようとした。
 汗みずくになって夢から醒め、それから夜明けまでずっと気分が悪かったが、朝になったので、無理して起き上がって働いた。

 その日の昼過ぎ、家の裏山の下で布を洗っていたら、山の上の方でざわざわと鳴る音がした。見上げると、夢に見たままの蛇が、腹は地面につけ、頭と尾を上げて、下女目がけて這い来るところだった。
 下女は驚きあわてて、家の中へ走り込んだ。蛇は布を洗っていた場所まで至ると、下女のしゃがんだ跡を悶々とのたくり回った。
 やがて、下女の逃げ込んだ戸口を怨めしげに見やってから、すごすご山へと這い戻っていった。
あやしい古典文学 No.1702