中村満重『続向燈吐話』巻之八「厠の神を見て死する事」より

墨のように黒い神

 昔から俗間で、「便所の神を見たら必ず死ぬ」などと言う。

 最近のことだが、かめという女が昼間に便所に入って、墨のように黒く、目鼻もないものが蹲っているのを見た。
 脅え慄いて気絶しているのを、だいぶ経ってから探しに来た父親が見つけた。
 介抱して家へ連れ帰り、薬を飲ませ、大声で呼んだりしたところ、息を吹き返した。
 「しかじかのものに逢った」と見たままを語ったが、それから三日ながらえて、ついに死んでしまった。
あやしい古典文学 No.1706