長山盛晃『耳の垢』巻二十六より

なめくじの怪

 あるとき、出羽の大館城の庭に、三尺ばかりの蛇が出た。
 近くに大きな蛞蝓(なめくじ)がいて、蛇の進む先を横切るように這っていくと、蛇は蛞蝓の這った跡を通ることができず、かたわらによけて進もうとした。
 しかし蛞蝓は、あくまで蛇の行先を塞いで、ついに蛇の周りに大きな這い跡の輪を描いた。蛇はどこへも行くことができなくなり、輪の中に蹲った。
 蛞蝓は次第しだいに輪を詰めながら蛇の周囲を回り、しまいには蛇の体のごく近くまで迫った。
 不思議なことに、回るにつれて蛞蝓の体はだんだんと細くなり、蛇の体の傍に来たときには三分の二ほどになっていた。
 さらに蛞蝓が回ると、蛇の体は霜の溶けるように次第に減少し、蛞蝓もまた溶けてゆき、ともに消えて黄色い泡のようになってしまった。
 これをそのままにしておいたところ、翌日になって見ると、かの泡のようなものは数万の蛞蝓に変じ、あたり一面はみな大小の蛞蝓で充満していたという。

 これは秋田藩の宿老で、大館に住居する前小屋氏が語った話だという。
 総じて大館のあたりは、蛞蝓がたくさんいる所だそうだ。
あやしい古典文学 No.1707