諏訪頼武『仮寝の夢』下「稲葉対馬守事」より

猫の子育て

 稲葉対馬守は山城国淀藩の藩主である。
 先代藩主のころ、家老に松尾某という者がいた。藩政に心を尽くし、抜群の功績のある人物だった。
 あるとき、松尾の屋敷の飼い猫がたくさんの子を産んだが、日ならずして親猫は子を残らず食い殺し、鼠の赤子四五匹を連れてきて、乳を与えて育てた。
 いかにも奇怪なことだと、屋敷の人々も不気味がっていたところ、翌年、思わぬ災難に見舞われて、松尾家は断絶したという。
 これは、「何につけても、ものの常を逸脱することは、きっと慎まねばならない」と、ある人が筆者の孫に語った話だ。

 そういえば先般、さる御家人の家でも猫が鼠の子を育てたそうだが、その後どうなったのだろうか。
あやしい古典文学 No.1715