『わすれのこり』上「犬の疫病」より

犬の疫病

 とりたてて病で苦しんでいる様子もないが、人に反応せず、日なたなどにじっとして動かない。ただ涎を垂らすばかりで、一日または半日ほどで斃れる。人がコレラを病むのに似ている。
 そのようにして、市中の犬の三分の一以上が死んだ。

 大谷木氏の説によれば、犬はモグラを恐れる。
 もし犬が伏した下の土をモグラが掘り進むと、大いに恐れて逃げ去るけれども、それから弱って、ついには死んでしまうそうだ。
あやしい古典文学 No.1716