長山盛晃『耳の垢』巻二十六より

大蛇 vs.鷲

 明和のころであろうか、横手城代の戸村氏が、鷲を飼っていた。
 山際に拵えた鷲小屋に入れて、毎朝餌を与えたが、ある朝、いつものように餌をやろうと小姓の者が行ってみると、鷲小屋に黒いものが巻きついていた。
 怪しく思って近くでよく見れば、胴回り二尺ばかりの大蛇が、鷲小屋を六重に巻いて、なお尾は山にあり、頭は見えない。大いに驚いて人を呼び集め、さまざまに言い合った。
「あの様子では、鷲はもう殺されたにちがいない」
「おのれ、鷲の仇、とらずにおくものか」
 若者七八人が、棒・熊手・鳶口などを振るって蛇の胴に引っかけ、巻いたところを解こうとしたところ、思いのほか力なく、はらはらと解けた。
 鷲小屋の中を見ると、鷲はまるで無傷で、かえって大蛇の頭を捕らえていた。蛇の目から頭頂にかけて両足でしっかり捉え、頭の肉を半分がた喰ってしまっていた。
 人々は大いに喜んで、つくづく様子を見るに、蛇の長さはおよそ二丈あまり、背の色は黒く光り、鱗の大きさは鋤ほどもあった。頭部は犬のようで、鷲についばまれて骨が露出していた。

 これは、大蛇が鷲を喰おうとして、鷲小屋の格子から首を差し入れたところ、鷲に頭を掴まれ、尾で巻こうとするも小屋の外にあるからかなわず、やむなく小屋ごと巻いたから、鷲の身には何の障りもなかった。そうこうするうちに鷲に頭の肉を喰らわれて、大蛇はあえなく死んだにちがいない。
あやしい古典文学 No.1718