加藤曳尾庵『我衣』巻八より

屋根屋の横死

 加賀原(かがっぱら)の辺りに、三百石取りほどの旗本の屋敷がある。
 あるとき屋根を葺き替えたが、代金の支払いが滞って、たびたびの催促にも応じようとしなかった。
 業を煮やした屋根屋は、葺いた屋根をめくり、取り払おうとした。主人の旗本は大いに怒って、槍で屋根屋を突き殺した。
 屋根屋の女房は、四五日経っても夫が帰ってこないので、屋敷へ行って尋ねた。すると、
「無礼をはたらいたので手討ちにした」
との返事。
 それより事件が表沙汰になって、容易に解決しそうにないらしい。

 なお、同じ辺りの旗本屋敷の表庭に、胴より上の両手がついた老人の死骸が捨ててあった。ほど近くから、股より下の足なども見つかった。
 驚いて訴え出たが、「そのまま取り捨てよ」との下知であった。
 手討ちにされた屋根屋の死骸であろうと、このごろもっぱらの噂である。
あやしい古典文学 No.1727