『浪花見聞雑話』より

投機家

 宝暦のころ、大阪の町に、白庵という医者がいた。
 名医だったが、とかく相場に入れ込み、折々は衣服なども売り払って、寒中でも申し訳程度の薄着で病家を往診することがあった。
 これにより、世の人は「はだか白庵」と呼んだ。

 相場師の七兵衛という者がいて、たびたび相場に波乱をもたらすような売買を為した。
 ふだんは汚れたボロボロの着物を着て、草履を作り、草鞋を編んだりしてほそぼそと暮らしていたので、「乞食七兵衛」と呼ばれた。
あやしい古典文学 No.1730