古賀侗庵『今斉諧』続志「酒塊」より

酒塊

 町奉行永田備後守の家臣某は、たいそう酒好きだったが、ある日、飲酒中にわかに胸がむかむかして堪えられず、赤紫色の塊を二つ、どっと吐き出した。
 某が驚き恐れているうちに、塊はむくむく蠢動して、たちまち数千万の小虫と化した。
 虫にはいちいち羽が生え、はたはたと飛び立った。残らず飛び去ろうとするとき、某は棕櫚の箒をふるって打ち落とし、数匹を捕獲した。
 その後、むかついた胸は次第にすっきりして、元どおり酒を飲むことができたそうだ。

 「虫は、色も形も羽のある赤小豆のようだった」
と、実際に目撃した猪飼斗南が、筆者に語った。
あやしい古典文学 No.1742