木崎タ窓『拾椎雑話』巻二十四より

味気ない大魚

 享保のころ、加賀の元吉ノ浜で三浦屋何某が舟を造っていると、ある日、大魚が漂着した。
 体の半分は浜に上がり、半分は海中にあって、長さは五メートルあまり、胴回りが二メートル半ほどあった。形は鯛のようで、色は真っ黒、目も口もなく、鱗もなくて、背の中ほどに穴が一つあった。
 見たことのない珍しい魚だと、人々が群集して見物した。
 切ってみると、身は白かった。さらに食べてみたが、何の味もないものだった。
 三浦屋の舟子たちがこの魚を買って、油を製したとのことだ。

 元吉の船頭が語った話である。
あやしい古典文学 No.1753