木崎タ窓『拾椎雑話』巻十六より

風来童子

 延宝年間のころ、若狭の国の本境寺受照院に、十歳ばかりの童子がやって来た。何国から来たのか、両親の名は? などと尋ねても、どこからとも誰々とも知らず、ただ独りで方々歩き廻っているとのみ語った。
「この寺に泊まって修行したいのかね」
と問うと、
「そうさせてもらえるなら、お願いしたい」
と言った。

 その童子は、人相といい眼差しといい、並の子供とはよほど違っていた。ときどき経文を教えたが、おそろしく覚えがよかった。
 たまには悪さもするので、叱って頭を叩くと、叩いた腕が萎えて痛み、五日たってやっと元に戻った。そうした不思議なことが何度かあった。
 そんなこんなで、どこぞの畏れ多い筋の子であろうと思われ、行く末が恐ろしくなって、寺を追い出したそうだ。
あやしい古典文学 No.1758