山崎美成『提醒紀談』巻五「烏紀々」より

満方

 陸奥国岩城の沖合の海に、「満方(マンボウ)」という大魚がいる。
 世間一般で「烏紀々(ウキキ)」というのはこの満方の内臓であって、地元の者は百葉(ヒャクヒロ)と呼ぶ。しかし、他国の人は「満方」のことを知らなくて、「烏紀々」が魚の名であるかのように語る。
 俗間にそうした誤解があるのは仕方がないが、貝原益軒も『大和本草』で、「烏紀々」を別物としている。無知なる説というべきである。
 益軒は西国で生まれ育った人なので、東海の魚に詳しくなくて、こんな間違いをしたのだろう。博識をもって知られた人にも見聞の及ばないところがあるのは、この一事からも分かる。

 さて、この魚は、冬から春にかけては少なく、夏と春に多い。大きなものは体長七八メートルもあるが、そんなのが獲れることは稀で、普通は二メートル前後、一メートルに満たないものもある。
 たいへん鈍い魚で、海上に浮かんだまま熟睡し、漁船が近づいても気づかない。
 漁師は小舟に分乗して接近し、銛を投じ、大勢が力を合わせてこれを獲る。そして、きわめて大きいものは、海上で切り割って、おのおのに配分するのである。
あやしい古典文学 No.1759