『浪花見聞雑話』より

男の首

 寛政のころ、
「男の首を網に入れ、女が背に負うて、今通っていった」
と、人が触れ歩いたことがあった。
 聞いた人々が走って行ってみると、
「今はどこそこの町を通っている」
とのこと。そこへ行って尋ねると、
「今、向こうの橋を渡った」
などと言う。
 どこで聞いても、さっき見たようなことばかり言って、じつは影も形もない空言であった。
あやしい古典文学 No.1765