平尾魯遷『谷の響』三之巻「骨牌祠中にあり」より

山神賭博

 陸奥国の目屋の奥、大滝股という幽境に、雁森というなだらかな山がある。毎年春と秋、渡りの途中の雁が憩う場所で、雁の羽毛や糞がたくさんある。
 山上に小さな祠があって、山神を祀っている。とはいえ、祠中には神体もなく幣(ぬさ)もなく、博徒の用いる骨牌(かるた)というものが置かれてある。
 時によると骨牌が二箱、三箱と置かれてあるが、誰もそんなものを寄進しないし、そこへ来て博奕をする者もいない。
 山の木こりたちによれば、これは山神が手慰みにするもので、畏れて手に触れることもしないそうだ。
あやしい古典文学 No.1775