津村淙庵『譚海』巻之二より

蛇のいる山門

 奥州岩城に、専称寺という寺がある。
 寺は山上にあり、山門の二階には長年、大蛇が棲みついている。人を害することはない。九メートルほどの長さの蛇である。

 その山門に、近年もう一匹、五メートル余りの蛇も棲むようになった。寺の者はそれを「小僧蛇」と呼ぶ。
 そのいわれは、かつてこの寺に素行の悪い小僧がいた。盗みをはじめ様々な悪事に手を染め、もてあました住職が領所の百姓に命じて密かに殺害させた。その小僧の霊が蛇となったというのだ。
 よって、ただ山門にいるだけでなく、領所の百姓の子孫に時々祟りをなすという。

 山門の屋根の萱の葺き替えを行うときは、半分ずつやる。一度に葺き替えると、蛇が姿を現して、人々が恐れるからだ。
 葺き替えの時に見ると、天井に蛇の糞が、雀の糞のごとく夥しくあるそうだ。
あやしい古典文学 No.1777