木室卯雲『奇異珍事録』三巻「呪瓢」より

瓢箪のまじない

 享保年間、巣鴨に、ある同心の隠居が住んでいた。
 夏のはじめ、その人は「家に蚊を入れないまじない」だといって、瓢箪に何やら入れて、屋敷のまわりをずるずる引いて歩いた。
 蚊はほんとうに、一匹も入ってこなかった。

 その人は、まじないを誰にも教えないまま、故人になった。
 残念なことだ。
あやしい古典文学 No.1781