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『談笈抜萃』上より |
水を吸うもの |
このたび川普請につき、大坂の川々を掘り浚えたところ、立売堀(いたちぼり)から珍しいものを掘り出した。 川浚えの人夫の鍬が石のようなものに当たったので、苦心して掘り出したところ、周囲二尺七八寸、径一尺ばかり、高さ六七寸の、漬物石のようなものだった。 当初は裏表に、掘るのに使った鋤の刃疵ががあったが、その疵口はしだいしだいに癒えたという。 それには香炉のように蓋があって、その蓋を取ると内は蜂の巣みたいになっていた。外側は軽石のようで、蛙に似た色つやをしていた。底にあたるところは蟹の腹のようで、白かった。手に持った感じでは、その固さは石ようだった。 水をひたすらかけてみるに、ことごとく吸い込んで、再び外へ漏れ出るということがなかった。 何というものなのか誰も知らず、その不思議さがさまざまの噂になって流れた。 そうするうち、同じ川筋の少し下流から、同じ形のやや大きいのを、また掘り出した。形状・模様から水を吸うことまで、少しも違わなかった。さらに近くでまたまた掘り出して、つごう三つになった。 このことは公儀の耳にも達し、取り寄せて観覧のうえ、掘った人夫に下された。しかしながら、それが何かは相変わらず知れなかった。 続いて蜆川みどり橋の辺でもまた掘り出したが、やはり形は少しも異ならなかった。ただし、以前のような蓋がなく、蓋に相当する箇所は少し窪んで、そこに水をかけるとことごとく吸い込むのだった。下部には穴が多くあるも、少しも水は洩れなかった。 いかにも奇妙な、不思議なものだった。人々はそれを、生あるものではないかと語りあった。 先ごろ、物産学に詳しい人に尋ねたところ、 「これは鑓到火(けんとうか)というもので、軍用であり、火攻めの際に使う道具だ」 と教えられた。なるほど、形はいかにもそうらしく見えるが、本当かどうかはいまだ分からない。 その後、立売堀で掘り出したのが、阿弥陀池および九条のあたりで見世物に出た。蜆川で掘り出したのは、北野の不動の寺内で諸人に見せた。 結局、諸所で合計六つ、掘り出したらしい。 |
あやしい古典文学 No.1784 |
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