中村満重『続向燈吐話』巻之一「火中に死人出る事」より

笑う死人

 越後国でのことだという。

 ある老女が死んだので野辺に送り、そこで火葬にしようとしたが、何度火をつけても、まるで水をかけたかのように消えてしまった。
 妖物が魅入ったかと思われたが、なんとかしないといけないので、棺の四方に萱を積み上げて、一気に火をつけた。
 さすがに燃え上がって、「すでに棺も焼けているよ」と見えたとき、炎の中から死人が頭を出し、けらけら笑いながら立ち上がった。
 わっ! と驚いて、葬送の者たちは蜘蛛の子を散らすがごとく逃げ失せた。

 田舎のことで、定まった火葬場はなく、亡骸を焼くのを仕事にする人もなくて、自分たちで墓所に送り、自分たちで焼く習わしなのだが、こうなると「立ち戻って焼きなおそう」と言う者は誰もない。
 老女の子は嘆いて、
「きっと夜の間に、死骸はどこかへ行っただろう。死後に悪相をあらわして恥をさらすとは、悲しいことだ。なんとか人に知られずに死骸を見つけだして、ひそかに我が手で焼いてやりたい」
と、一人で墓所に行ってみると、いつの間に焼けたのか、骨ばかりが残っていた。
 いかなるものが魅入ったのか、それは分からない。
あやしい古典文学 No.1785