HOME | 古典 MENU |
中村乗高『事実証談』巻の三より |
飛地蔵 |
駿河国岡部宿の川原町に、「飛地蔵」という石の地蔵がある。 古い時代に破損して、頭と体が二つに分かれているが、この地蔵、どういうわけか東西にしょっちゅう移動して、元々の場所にあることはまれだ。 地蔵が移動しようとするときは、往来の荷馬がその場所に来ると、にわかに荷物の片側が重くなって、つり合いが悪くなる。 馬子は言い伝えを思い出し、 「地蔵がどこぞへ行きたがるのだな」 と察して、荷物の軽い側に地蔵の頭を載せてつり合いをとって行く。 地蔵が降りようとするときは、また急に荷物のつり合いが悪くなるから、そこに頭を捨てて行く。 頭ばかりでなく、体のほうも移動したがる。体はずいぶん重いが、やはり馬の荷物になって行く。三里・五里ほどのところばかりでなく、時には他国・他境にさえ至る。 それゆえ、人々は「飛地蔵」と呼んでいるのだ。 |
あやしい古典文学 No.1795 |
座敷浪人の壺蔵 | あやしい古典の壺 |