滝沢馬琴編『兎園小説』第四集「七ふしぎ」より

甲斐国七奇異

 寛政三年、甲斐国に七奇異があった(正確には甲斐に六奇異、遠江に一奇異で、合わせて七奇異)。
 ある人の手紙によれば、以下の七つである。

  (一)
 甲州善光寺の如来が、当春二、三月に汗をかき、僧が二人ずつで日夜拭った。
  (二)
 切石村百姓 八右衛門の家の鼠は、大きさ一尺あまり。猫の声で鳴く。
  (三)
 切石村より一里ばかり山に入ったところの石畑村で、馬が人語を発した。もっとも一度きりで、その後はない。
  (四)
 八日市場村、切石村、荊沢村にて、雌鶏が化して雄鶏となった。
  (五)
 東郡の一町田中あたりの三里四方に、五月、雹が降って、三尺あまり積もった。これに打たれて死んだ鳥獣多数。
  (六)
 甲州七面山が山鳴りし、御池の水が濁りきった。
  (七)
 遠州豊田郡月村の百姓 作十郎方の鍬に、草が生えた。刃先より三寸のところに一本生え、その枝が十六本。杉のような形で、三日目には桜に似た花を開いた。幹も枝も花も、みな鍬の金属だった。
あやしい古典文学 No.1804