中村新斎『閑度雑談』中巻より

鼠塚

 河内国藤阪村の農民某の田んぼに、三尺四方ほどの小高い草むらがある。昔からあるものだが、その由来を知る者はいない。
 ある年、某は、
「この草むらは僅かの土地だが、まことに諺にいうところの『国土の費え』だ。そもそもわしの田地なのだから、思うままにして何のはばかることがあるものか」
と腹を決めて、その草むらを開墾し、周囲と同じように稲を作った。
 田は、順調に秋の実りのときを迎えた。
 ところが、そこに忽然と鼠数十匹が出現し、あらたに開いた三尺四方に育った稲をことごとく食い尽くしてから、どこへともなく行き去った。

 これを見聞きして、大いに驚き、怪しまない者はなかった。
 某自身の驚きは言うまでもない。これではさらにどんな災いが生ずるかもと慄き恐れ、急ぎその場所を元どおり小高くした。以後いささかも触れないようにしたので、ほどなく前と同じような草むらに戻った。
 以来、土地の者は草むらを「鼠塚」と言いならわして、今もそこにある。
あやしい古典文学 No.1807