松浦静山『甲子夜話』巻之巻之四十三より

大物の運搬

 霜月のこと、浅草へ行く者が、諏訪町のあたりで、異様な光景を見た。
 巨大な蟾蜍(ひきがえる)を檻のようなものに入れ、数人で担いでいくのだった。
 蟾蜍の丈はニメートルに近かった。丈に相応の大きな腹を据え、眼は月星の光のごとく輝いていたそうだ。
 この蟾蜍、いったい何処の産で、何処へ運んでいったのだろうか。

        ※

 織田越前守の所領である出羽高畠藩で、大きな白狼を獲った。小さい馬ほどもある狼だった。
 藩士が荷ごしらえして江戸へ送ろうとしたが、宿場の馬がどうしても荷を運ぼうとしない。
 馬方が不思議がって「この荷物は何ですか」と問うので、「じつは大きな狼」と応えると、「それでは馬が恐れるのももっともです」と運搬を断られた。
 仕方がないので、駕籠に乗せて、藩士同道で運んできたと聞く。
あやしい古典文学 No.1811