渡邊政香『今昔参河奇談』「雷公を井に縛す」より

井戸に落雷

 『三河刪補松(みかわさんぽのまつ)』によれば、正徳年間、小坂井村坂下の茶店の井戸に雷が落ちて、たちまち雨が止んだ。
 井戸の中を覗いたら、大きな鼬ほどの獣がいた。梯子を下ろすと取りついて登ってきたので、二重に張った網で捕らえた。
 細引きで繋いでおいたが、雨天になると力が倍増して、麻紐を引きちぎってしまうので、鎖で繋ぐことにした。
 何を食うのか分からなくて、魚・鳥・虫類をいろいろ与えてみたが、どれも食わず、七八日過ぎて死んでしまった。

 同じく『三河刪補松』によれば、吉田竜拈寺の塔頭、悟慶院前の榎に雷が落ちて、二抱えあまりの大木が四つか五つに割れ裂けた。木の下には薄墨色で長さ四寸ほどの毛が、二十筋ばかり落ちていた。これは、筆者が幼年の頃に実際に見たことでもある。
 また近年、設楽郡大宮村に雷が落ちたが、その跡に鳶色で長さ二尺ばかりの三色毛があったそうだ。長篠村の医師 阿部玄喜が実際に見たと語った。
あやしい古典文学 No.1817