瑞竜軒恕翁『虚実雑談集』巻之一「雲中に美女の姿見えし事」より

雲中の美女

 奥州岩城領の荒田目川で、鮭を獲ろうと簗をかけ、水上に小屋をかけて番をする漁師がいた。

 ある夕方、漁師は、川上の松など繁った名もない山から、川沿いにひとかたまりの雲がやって来るのを見た。
 雲の下では川の水が二丈ばかりも、風に吹き上げられたように高く波立った。
 容顔美麗の女の姿が、雲の中に見えた。
 やがて雲は海岸へ出て、海の上を留まることなく遠ざかり、その間、空は赤く、火など焚いたかのようだった。
あやしい古典文学 No.1825