瑞竜軒恕翁『虚実雑談集』巻之一「酒を好みし者の事 附今猩々の事」より

酒飲みの根源

 常に酒を多く飲む男が、ある時、喉から赤いものを吐いた。妻がその赤いものを拾って、保存しておいた。
 その後、男は下戸になった。いっぽう、吐いた赤いものは、日が経つにつれて白くなっていった。
「俺は酒を呑んでこそ、毎日が楽しかった。下戸になって、楽しみは薄く、面白くない。また飲みたいものだ」
 男はそんなことを言いながら、かつて喉から吐いたものに酒を注いだ。一升・二升とかけると、白くなっていたのがまた赤くなった。
 男がそのものを飲み込むと、また以前と同じ大上戸になった。
 これは、堀越なにがしという医師が、実見談と語ったことだ。

     *

 越後国の名生村の庄左衛門という漁師は、常に五升、一斗の酒を呑み、酔うことがなかった。
 それを聞いた国主が、不思議なことだと思い、「かわいそうだが……」と言いつつ庄左衛門を殺し、解剖してみた。
 腹中に、三寸ばかりの壺のようなものが二つあった。それを取って酒を入れたところ、どれほど入れても満杯になることがなかった。
 これは慶長年間の話だそうで、庄左衛門は当時、「今猩々」と呼ばれたらしい。
あやしい古典文学 No.1826