『異国物語』「瓠犬国」より

瓠犬国

 はるかな昔、高辛氏が帝王であった時代のこと。

 宮中の老女の耳の中から、蚕の繭のようなものが生じた。
 それを瓠(ひょうたん)に入れておいたら、化して犬となった。五色の犬で、名付けて「瓠犬(こけん)」といった。
 そのころ呉将軍という者が謀反を起こすと、瓠犬はひそかに敵営に潜入して呉を殺し、首をくわえて戻った。
 帝は喜んで、褒美に官女を与えた。
 犬は女を連れて南山に入り、三年のうちに男子十二人が産まれた。子はみな人の姿をしていた。
 帝はこの一族を長沙の武陵蛮の領主としたが、子は自分の父が犬であることを恥じて、ひそかに欺いて父を殺した。
 今の瓠犬国は、その末裔の国である。
あやしい古典文学 No.1853