高力種信『金明録』第二部第四冊より

魚降る町

 文化十年七月十七日、雷雨があって、名古屋の門前町では、怪しい魚が空から降った。
 形はうなぎの類で、アナゴによく似ていた。
 凶暴なやつで、往来の人に飛びかかり、噛みつくのを、皆が寄ってたかって打ち殺した。

 よく聞けば、阿弥陀寺あたりに降ったらしい。
 長さ七〜八十センチ、頭部はトチウオのようだった。胴から尾にかけてはサンショウウオのごとく薄黒い柿色で、白黒の紋様があった。
 その魚の死骸は、某屋敷で所持している。
あやしい古典文学 No.1858