『斉諧俗談』巻之一「一目連」より

神風・悪風

 伊勢・尾張・美濃・飛騨の四ヵ国において、不意に暴風が吹いてきて、大木を倒し、大岩を崩し、民家を破壊することがある。ただし、風はただ一筋を吹き通り、その外のところには被害を及ぼさない。
 これは「一目連」と呼ばれ、神風なのだという。実際、伊勢国桑名郡の多度山に、一目連の祠が祀られている。
 相模国にも似た風があって、「鎌風」と名づけられている。駿河国にもあって、「悪禅師の風」という名だ。
 地元の言い伝えでは、一目連の形は人のようで、茶色の袴を穿いているそうだ。

 蝦夷松前では、厳寒の十二月の晴天のときに、狂風の吹くことがある。たまたま道を行く人がこの風に遭うと、たちまちその場に倒れ伏し、必ず頭部や手足に五六寸の疵を被る。しかし、死に至るほどのことはない。
 俗にこれを「鎌閉太知(かまいたち)」という。急ぎ大根の汁を付ければ、早く癒える。しかしその痕が、刃物傷のようになって残る。
 このことは津軽地方にも間々あるというが、いずれ極寒の陰毒であって、一目連とは異なる悪風である。
あやしい古典文学 No.1878