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平尾魯遷『谷の響』四之巻「氷中の虫」より |
氷雪虫 |
安政四年の夏六月二十七日、筆者の娘が雪氷を買って食べていると、その氷の中に虫がいた。 見せてくれた虫は、一寸足らずの絹糸のようなもので、固い雪氷の中を自在に動き回り、氷の表面に体を出したりもした。 珍しいので茶碗に入れておいたところ、やがて雪氷が溶けて水になり、虫はいよいよ元気に伸び縮みするばかりか、時おり竜のごとく威嚇する勢いを見せた。 やや薄赤い虫だったが、なにしろ小さいから、どちらが首か尾か分からないし、目も口も定かでなかった。 事物の性質は測りがたいものだ。 雪に棲む蚕、火に生まれる鼠があるというのも、虚言とはいいがたい。世の人は、自分が見たことがないからといって、むげに疑うべきではない。 |
あやしい古典文学 No.1884 |
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