『諸家随筆集(村井随筆)』より

腹中の旅人

 寛政十一年のこと。
 志摩国の亀島で、長さ十六メートルあまりの大鮫を捕った。
 腹を割ると、旅人とおぼしい紺の脚絆をつけた死骸があった。財布には金百八十両が入っていた。

 この件、藩主に届け出があって、隣国伊勢でも大評判だという。
あやしい古典文学 No.1896