岡村良通『寓意草』上巻より

月夜の兎

 越後川のほとりに住む人が、兎を籠(こ)に入れて飼っていた。
 秋のころ、月の明るい夜に、籠を木にかけておいたら、兎はみな籠から抜けて、川の水面を走り去った。
 籠に隙間があったのではなく、編み目から抜けて出た。

 兎は、月に向かえば身が自由になって、いかに小さい籠の目からでも出て、水の面を走るという。
あやしい古典文学 No.1898