西村白烏『煙霞綺談』巻之二より

長命の条件

 尾張国長久手の丹羽太郎兵衛の娘は、同地で豊臣秀吉軍と織田信雄・徳川家康連合とが戦ったとき、三十五歳だった。
 この女は長命で、百五十余歳まで存命し、元禄十年には尾張徳川公に召された。
 そのとき徳川公に、長久手の陣のことを尋ねられたが、
「とにかく、陣中で飯を炊いておりました。ほかのことは、まるっきり覚えがありませんですよ」
と答えた。

 たしかに、これほど鈍くて何も考えないような者でなければ、百五十年以上も生きられないのだろう。
あやしい古典文学 No.1901