和田烏江『異説まちまち』巻之三より

したたか者

 新庄家において、出世して権勢のあった家臣が重い罪に問われて死罪と決し、下屋敷で刑が執行された。

 その家臣は、乗物から出るときに縄をかけられたが、なかなかのしたたか者で、
「殿さまより拝領の御紋付を着ておる。御紋に縄をかけること、畏れはばかるべし」
とわめいて抵抗した。
 捕り手は、小刀で紋のところ五か所を切り抜いてから縛った。
 そのあと、罪状を箇条書きにしたものを読み聞かせ、「右の罪によりて……」まで読んだところで斬った。そのわけは、「……よりて死罪。」と終わりまで聞かせると、あれこれ言い訳して面倒になるから、というのだった。
あやしい古典文学 No.1902